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「景さんから連絡がありました。
潜入捜査をするんですか。」
つい責め立てるような言葉が口から出る。
楓は何も答えない。
その沈黙にイラっとし思わず
「止めてください。」とだけ言う。
それでも楓は何も答えない。
俺はイライラをぶつけるように言葉を繋げた。
「俺がいない時になんでそんな事をするんですか。
何かあった時 誰が楓を守るんですか?
今の俺の状況がどうなのか
楓だってわかっているでしょう。
連絡も取れないような状態で
楓に何かあっても俺は対応できない。
そんな事をする時間は無いんです。」
ふっと息を飲む音が聞こえた。
しばらくまた沈黙が続き
「・・大丈夫です。。。」と
聞こえてくる。
何が大丈夫だ。
大丈夫なはずがない。
「何が大丈夫だと・・・」
「高嶺さんは。」
遮るように楓が言葉をつなげる。
「・・高嶺さんは俺の事なんて
気にしなくていいです。
考えなくていいです。
この一か月そうだったでしょう。
だからもう気にする必要なんてありません。
そちらが大変なのは聞いてます。
なので。。。俺の事は気にしないでください。」
楓はそれだけを言って通話を切った。
静けさだけが俺を包む。
この一か月そうだったでしょう。
そうだった。
俺はこの一か月
楓の事を全然考えてやらなかった。
会えない辛さから逃げ 考える事を止めていた。
たくさんの言い訳が頭をよぎる。
楓は一度も文句を言ったことも無い。
なのに今 俺は面倒な事をこれ以上
増やすなとでも言うかのように楓を責め立てた。
そんな俺に 考えてもいなかったのに
なんで急に考えようとするんですか。
楓にそう言われ頬を引っ叩かれた気がした。
雨が急に振り出し
携帯を持ったまま 立ち尽くす俺に
容赦なく雨粒が降り注ぐ。
それでもそのまま身動き一つできず
ただじっとそこに俺は立ち続けた。
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