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ごほんごほんと高嶺が咳をしている。
俺に資料の説明をしようとするたび
咳が止まらず中断する。
仁は心配になり 高嶺のおでこに手をあてた。
払う気力も無いのか なすがままだ。
熱い。熱が出てる。
きっと身体の節々も痛いのだろう。
時々顔をしかめながら
首を回したり肩を回したり。
「大丈夫か?」
「・・はい。。それで。。」
言葉を出そうとすると また高嶺は激しく
咳き込んだ。
これは駄目だ。
目の前の苦しそうな従兄弟を見つめる。
体調もそうだが 精神的にも辛そうだ。
何かを後悔し ずっと自分を責めているように
見える。
感情がこれだけ表に出る事自体滅多に無い。
いつだって何ごとも正確な判断をし
感情に振り回される様な奴では決して無い。
確かにこっちに来てからずっと緊張の連続で
身体も神経も休めていない。
その上どうも楓ちゃんと喧嘩をしたらしい。
連絡をしたのか?と聞くと
高嶺はただ頷いただけで
その後一切その事には触れなかった。
態度も余計に硬化し
風邪をひいたのか体調も悪いのでは
これ以上仕事をさせていても
逆に差支えが出るだろう。
「今日はもう帰れ。マンションで寝てろ。」
俺がそう言うと高嶺は頑なに首を振る。
本当に我が従兄弟ながら
なんでこんなに頑固なんだろう。
まあ。高嶺をこうしてしまったのは俺だ。
昨日はびっくりした。
あんな風に言い返す高嶺は初めて見た。
コイツは今 一人で戦っている。
追い詰められ 心が荒み 余裕がない。
人間は心が満たされていないと
悪循環に陥りやすい。
その上 愛しい恋人と。唯一 高嶺が心許せる
恋人と あんな風に引き裂いた。
今の高嶺を満たせられるのは 楓ちゃんだけだ。
それでも絶対に帰らない。
勿論 俺の心配をし 解決してからでないと
帰れないと思うのはわかる。
俺たちがコイツをここに送り込んだのだ。
責任は本来は俺と久家にある。
久家も心配していて この間電話を貰った時
楓ちゃんも憔悴していると聞いていた。
可哀想な事をした。
やり方が失敗だった。
もう少しきちんと準備してからにするべきだった。
だが車の事件があったのも
山岸が入院したのも急な事だった。
そうも出来なかった理由もある。
とはいえ今の二人を考えると
本当に申し訳ない事をしたと思う。
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