寄り添う

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シャワーを浴びてバスローブを羽織ると 矢野はベッドの端でスースーと 寝息を立てていた。 こんな広いベッドの一番端に身を置く 矢野の慎ましさにまた笑いが込み上げる。 庶民だもんな。クスリと笑みを浮かべた。 かなり疲れていたのだろう。 俺が立てる音にもピクリとも動かない。 当たり前だ。 三週間もあそこに一人で立ち ずっと見張っていたのだから。 なんであんな無駄な事を。。と 正直今でも思っている。 タバコに火をつける。 甘い香りが部屋中にゆるゆると広がった。 そのまま煙を吐き出しながら 小さく丸まる体を見て不思議に思う。 人はこんなにも信念だけで 突き動けるものなのか。 俺にはわからない。 でも わかりたいと思うようになっている 自分がいる。 コイツを理解したい。 その苦しみを分かち合えたら 自分の苦しみが少し和らぐ気がした。 今日のように。 俺も二日寝ていない。 安らかな矢野を見て眠気を覚え タバコを消してベッドにそっと潜り込む。 男とベッドを共にするのも初めてだ。 元と本家で雑魚寝ならした事はあるが。 眠りが訪れるのを目を瞑り待っていると カタカタと小さくベッドが揺れる。 なんだ。と矢野を見ると 暗がりに身体をさらに丸めて小刻みに震えていた。 熱が出てきたのか。 身体を矢野に寄せ そっとおでこを触る。 少し熱い気がする。 寒気がするのか 震えが止まらない。 どうしようかと少し逡巡したが この間どうせやっている。 一度も二度も変わらないかと とりあえず暖を取らせるために 身体を引き寄せ抱きしめた。 小さい体はすっぽりと俺の腕の中に収まり ヒンヤリとした身体が徐々に俺の 体温で温まっていく。 震える身体が徐々に緩み 自然とその小刻みな動きが止まる。 ほっ。と無意識に吐き出す吐息が 柔らかく俺を包み 何故だかとても安心する。 ぎゅっとそのまま抱きしめたまま 俺はすーっと意識を手放した。
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