寄り添う

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じゃあ俺はやっぱりただバカみたいに あそこに立ってただけだったんだ。。 この人の言う通りだ。 ああやって俺がぼーっと立ってる間に きっと人は死んでしまう。 高嶺のように優れた人はすぐに情報をつかんで 人を助ける事が出来る。 もしかしたら留美だって。。。 「あ・・ありがとうございました。」 高嶺に頭を下げて 急いで立ち上がる。 「矢野さん?」 高嶺がどうしたんだろう。という声音で 声をかけてくれたが 俺は顔があげられない。 自分の無能さが恥ずかしくてたまらず もうこれ以上ここに居たくない。 なんだろう。 今までの事を思えばこんなの何度だってある。 成果が挙げられなかった事の方が多い。 それにこの人は俺がバカだって知ってる。 だからあれだけ苛々とするのだ。 それなのに今はそれがすごく悲しい。 この人にやっぱりバカだったなって 思われていたのが悲しい。。 高嶺さんはいい人だから同情してくれたのかな。 だからあんなに優しかったのか。。。 「・・・本当にありがとうございました。」 ぺこりと頭を下げて俺は下を向いたまま 走って店を飛び出した。 あんなに色々してくれた人になんて事を。。と 自分で自分を罵倒しながら。。 あれから 俺は政友会の斎藤を尾行している。 もう1週間だ。何も出てこない。 まだパーティーの情報も掴めていない。 無駄なのかもしれない。と最近思ってしまう。 また こうやっている間に人が死ぬのかも・・・ きっと高嶺ならこの先全然違うアプローチで 斎藤を追い詰めていけるのだろう。 あれだけ親切にしてくれたのに。 あんなに色々して貰ったのに。 俺は逃げるようにその場を立ち去った。 一緒に居て楽しかった。 久しぶりに気持ちが温かくなった。 同情してもらってたなんて。 気づきもせず 世話になりまた迷惑をかけた。 あんたバカですか。とでも言う様に 前みたいに呆れられた方が良かった。 そんな勝手な自分の思考に あれだけ迷惑かけてよくそんな事思えるな。と またどんどん自分が嫌になる。 「ああっ!」 俺は急に思い出しバッと立ち上がると 周りはビクッと静まり返る。 お金全部払ってない。。ああ。。もう俺は。。 死ね。。死んでしまえ。。 ずぶずぶとまた署の机に 沈み込んでいく矢野の姿に 坂田は 参ったな。。と深くため息をつき 携帯を取り出した。
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