寄り添う

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あの時の顔。 何かが突き刺さったような痛みを映す 大きな瞳が揺れた。 哀しそうに俺を見つめ すぐに目をそらし 下を向いてそれからはもう一度も 顔をあげなかった。 俺に日頃バカにされていると思っているであろう 矢野がそんなにショックを受けるとも 思っていなかった。 前の晩 矢野はとても楽しそうだった。 ありがとうと何度も言ってくれた。 俺はただ少し矢野にゆっくり休んで欲しかった。 その強い信念に突き動かされている 小さい体を休めて欲しかった。 同情されたと思ったのか。 バカにされたと思ったのか。 これ見よがしに情報を叩きつけ お前が今まで必死にしがみついて 頑張ってきたことは全部 無駄だったのだと思わせたのか。俺は。 ぶるぶると体が震え始める。 こんなに自分が嫌になったことは無い。 こんな感情に支配されたこともない。 この感情が持つ意味もわからない。 どうしたらいいかわからない。 今まで意味が分からない事は切り捨ててきた。 考える必要もない。 無駄だと思っていたからだ。 そんな無駄な事に時間を割く必要など どこにもないとずっと思ってきた。 だからそこから先の方法論など持っていない。 俺には何も出来ない。 こんなにも気になるのに何も出来ない。 何かしたいと焦燥に煽られるのに 俺は何もしてやる事が出来ない。 長い付き合いで一度も見た事がない程 動揺し取り乱す高嶺の様子に 元は驚愕し 景は 今のこの状態の高嶺は無理だな。。と そこから先の手を進めるのを止めた。 ぶるぶるとその大きな拳は震えたまま 色が変わるほどぎゅっと握りしめられていた。
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