震える

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坂田は約束を取り付け 高嶺と待ち合わせた。 今の矢野は高嶺に会える状態ではないだろう。 何があったのかはわからないが 真壁の話では 高嶺も同様に様子がおかしいと聞く。 しばらく放っておいたほうがいいかも。。と 言っていた。 待ち合わせの喫茶店で  高嶺は俺に気付きもせず 窓の外を見ながら肘をついていた。 確かに。 いつもの高嶺らしくはない。 幼少期から複雑な家庭環境に育ち どこか冷めた目ですべてを見透かし生きてきた男も  矢野のせいでこんな風になるのか。 ちょっとそれはそれで面白い。 一体何があったのか・・と野次馬根性が生まれるが とりあえず今は仕事の話だ。 「高嶺。悪いな。」 俺がそう声をかけると 高嶺は振り向き すっといつものモードに戻った。 なるほど仕事はちゃんとやると聞いていた。 「いえ。電話で話せない話ってなんですか。」 「まあコーヒーぐらい頼ませろ。」 店員にコーヒーを頼み 水を一口飲む。 その間高嶺はじっと黙って動かない。 その様子はよく知る普段の高嶺で 問題は無さそうだ。 電話でもよかったのだが高嶺の様子を キチンと見極めてから話をしたかった。 使えない奴に話してもしょうがない。 「お前の所のシマのキャバクラ ロイヤル あそこのボーイ。綺麗なのいただろ。」 ああ。と高嶺は頷く。 「アキラですか。」 「そうそう。アキラか。あれ死んだよ。」 え。。と高嶺は眉を上げる。 「連続殺人事件四人目のガイシャだ。 腕に複数の注射痕。 柏木組のシマでヤクはやばいよな。」 高嶺は途端に厳しい顔つきになり 頭を下げると立ち上がって店を出て行こうとする。 「高嶺。」 俺が声をかけると すっとこっちに一瞥をくれる。 「矢野がおかしい。早く仲直りしてやってくれ。」 そう言うと苦しそうに顔を背け そのまま何も言わずに店を出て行った。 なるほどこれはこちらも重症だ。 坂田は運ばれてきたコーヒーを飲み 煙草の火をつけながら 全く減っていない目の前の黒い液体を見つめた。
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