story 1 ~ 序章

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「プライベートだったんですが。」 俺がそう言うと 途端に顔が青ざめ あたふたと 落ち着かない様子を見せる矢野は す。。すいません! あ・・あの。知らなくて。。 いや。。知らなくてじゃないですよね。 もうこんな時間で。。 すいません。。ほんとすいません。 迷ったんですけど。。でも。。あの。。 と一人芝居を続けている。 俺は黙ってそれを見ながら コーヒーに口をつけた。 以前俺のプライベートを邪魔して 怒らせた事をトラウマのように抱えていて ちょっとこうやって揺さぶると 面白いくらいの慌てぶりを見せる。 ただでさえ小さい体をどんどん小さくする この人は 景の刑事時代の後輩だ。 矢野楓 小さい顔に大きな瞳がクルクルとよく回り 口元に小さいホクロがある。 背も低く 身長195センチの俺から見たら 小学生の様な体躯で 実際に刑事とは 思えないぐらいに立ち回りが出来ない。 頭の回転も鈍いのか 俺の言うことを 一度で理解した事が無く いつもポカンと口を開けている。 気も弱いのかしょっちゅう謝り そのくせ辛抱強く じーっと待ち構えて 犯人を捕まえる様な奴だ。 正直俺の一番苦手なタイプで 景の後輩じゃなければ 近づくのも ごめんこうむりたい。 一度一緒に聞き込みに同行したが 絶えず待とうとするそのやり口が全く 理解出来ず 今でもよくイライラとさせられる。 それでいて真実に確実に近づく様を見せられ 余計にこの人がよくわからなくなっていた。 わからない。という事があまり無い俺には 希少動物の様なものだ。 基本関わってくる人間は調べる事にしている。 一般的な中流家庭に育ち 家族は五人。 これで長男だというのだから驚きだ。 下に弟と妹がいるが 8年前に妹は心臓麻痺で亡くなっている。 景の一つ下だから俺の三つ上。 年上だとも思った事がない。 全てにおいて幼く見える人だった。
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