story 1 ~ 序章

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話し合いでなんとかその場が収まったのか 俺がコーヒーを飲み終わる頃 景ははーーっと息を吐き 俺の方へ向き直った。 その顔は怒っていなかったので 俺の意地悪は寛容に許してくれたらしい。 「来生の具合はどうだ?」と聞く。 俺の父親の事だ。 景も元ももちろん面識があり 小さい頃はうちの親父が俺たち3人を遊びに 連れ出したこともある。 「相変わらずです。」と答えると 少し悲しそうにその瞳を揺らし  そうか。。と言った。 元も横で神妙な面持ちになる。 気を遣わせて申し訳ない 俺の父親の来生大和は元の父で 柏木組の組長の辰雄と兄弟分だ。 母親は物心ついた時から居ない。 男を作って出て行ったと舎弟が噂しているのを 子供の時分に耳にした。 「弟分に寝取られて逃げられるなんて 情けないよな。」と 言っているのを聞き  その当時は理解できなかったが 今はもちろんよくわかっている。 父は優しい男で 極道に身を置くものとしては 多分にきっと優しすぎた。 俺が小学生の頃  寝取って逃げた弟分が訪ねてきて 金を無心され しばらく工面してやった後 胸を刺されて重傷を負った。 表向きは病気療養中となっているが 実際は間男に刺され 再起不能となり 命に別状は無かったものの  刺し所が悪かったせいで半身不随になり  その上刺された時に倒れた場所が悪く 頭を激しく打ったせいで脳波に異常が見つかり 意識をほぼ取り戻すことなく 植物人間状態になった。 それからずっと 寝たきりが続いている。 そっと命の炎が消えていくまで きっとずっとそのままだ。
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