もしもの話

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   *  私と将吾は同じ大学の生徒だった。  文系科目が苦手だから、理学部へ。そんな適当な理由で進学した大学で、私は半年ほど華の無い日々を過ごしていた。  私が無意識に〝運命の人〟を探していたのは、そんな退屈な毎日に飽き飽きしていたからなのだろう。  たまたま同じ講義を取っていた将吾に、私は恋をした。 〝あの、貴方。ズボンのファスナー開いてますけど〟  そんなデリカシーの無い言葉をかけられた相手に恋をしたのだから、私も大概センスの無い女だと思う。  アパートを出ると、朝だというのに月が見えた。  青空に今にも飲み込まれようとしている、白い満月。それはきんと冷えた朝日の向こうに消えかけていたが、夜に見える小さな星たちとは違う、圧倒的な存在感を感じる。  この場所から一番近い星。 「ねえ。ここからあそこまでってどれくらいかな」  そう呟くと、将吾はアパートの鍵を閉めつつ答えた。 「……月? 月までは三十八万キロだろ。理系のくせに、それくらい知っとけよ……つーかさ、お前何なん?」 「何が?」 「いきなり休むって……。ちゃらんぽらんでアホだけど、学校だけは休まず通うのが山倉千砂サンだろ」  錆びついた階段は、足を踏み出すたびに小気味いい音を奏でる。  私は一階まで足早に駆け下りると、頭上に向かって叫んだ。 「将吾こそ! なんでOKしてくれたの?」  
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