6人が本棚に入れています
本棚に追加
*
私と将吾は同じ大学の生徒だった。
文系科目が苦手だから、理学部へ。そんな適当な理由で進学した大学で、私は半年ほど華の無い日々を過ごしていた。
私が無意識に〝運命の人〟を探していたのは、そんな退屈な毎日に飽き飽きしていたからなのだろう。
たまたま同じ講義を取っていた将吾に、私は恋をした。
〝あの、貴方。ズボンのファスナー開いてますけど〟
そんなデリカシーの無い言葉をかけられた相手に恋をしたのだから、私も大概センスの無い女だと思う。
アパートを出ると、朝だというのに月が見えた。
青空に今にも飲み込まれようとしている、白い満月。それはきんと冷えた朝日の向こうに消えかけていたが、夜に見える小さな星たちとは違う、圧倒的な存在感を感じる。
この場所から一番近い星。
「ねえ。ここからあそこまでってどれくらいかな」
そう呟くと、将吾はアパートの鍵を閉めつつ答えた。
「……月? 月までは三十八万キロだろ。理系のくせに、それくらい知っとけよ……つーかさ、お前何なん?」
「何が?」
「いきなり休むって……。ちゃらんぽらんでアホだけど、学校だけは休まず通うのが山倉千砂サンだろ」
錆びついた階段は、足を踏み出すたびに小気味いい音を奏でる。
私は一階まで足早に駆け下りると、頭上に向かって叫んだ。
「将吾こそ! なんでOKしてくれたの?」
最初のコメントを投稿しよう!