もしもの話

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   そっちこそ、学校なんてサボらない真面目ちゃんのくせに。  講義中居眠りをしたら、ペンで容赦なく突いてくるくせに。体調悪くても無理やり学校に行くし、去年なんか誰に評価されるわけでもないのに無駄に皆勤賞だったくせに。何故こんなことに承諾してくれたんだろう。  ちなみに私が授業をサボらないのは、単に将吾に会いたかったからだ。  ただ、それだけ。学部は同じでも、学科が違えば他人のようなものだ。将吾は天文学科なので私と被ってる講義は少ないし、おまけにメールもろくに返さない筆不精な男だから、私はいつも校内で将吾を探し回っている。 「はあ、寒……」  将吾は私の問いを無視したまま、マフラーを手に階段を降りてくる。  彼は都合が悪くなると、いつも話をうやむやにする。いつもどこか、私に対して面倒そうな態度を取る。 「……ね、どこ行こっか」 「どこでも」  他人任せな口調。  たまには意見を言ってくれたっていいのに。こういう時だけ主体性が無くなるのだからずるい。  ……将吾は何故私と付き合っているのだろう。 〝将吾って、本当は私のこと好きじゃないよね〟  本当はそう聞きたい。けれど、余計なことを言って決定的な何かを言われるのが、怖い。  だから私はいつも、おちゃらけてはぐらかしてしまう。 「んー。じゃあね……。……もしもさ、月に行きたいって言ったらどーする?」 「無理。いつか、俺が宇宙(そっち)関係の職に就けたら実現させたいけど、今は庶民に月旅行は無理」 「んー、んー……じゃあね、動物園行きたい!」  私の提案に、彼はいいとも悪いとも返さず歩いていく。 〝別に、デートだって乗り気じゃないんでしょ〟  聞いてみたい。けれど、聞けない。  ……はっきり言えたら、私は楽になるのだろうか。  
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