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平日の動物園はがらんとしていて、どこか物悲しい雰囲気を醸し出していた。
寒さのせいか、動物たちは皆肩を寄せ合い静かに過ごしている。なんというか、見応えが無かった。
きっと動物園にも冬には冬なりの面白さがあるのだろうが、私にそういった知識があるわけでもない。ただただ虚しい気持ちで、動きの鈍った動物たちを見物していた。
冷たい風に身を縮こませる。空を見ると、いつの間にか雲が立ち込めていた。
朝方見えていた満月はもうどこにも無い。
「……お前ってさ、動物好きだったの?」
ふと、ニホンザルの群れを眺めていると将吾にそう聞かれた。
将吾は先ほどから、黙って私の後をついてくるばかりだった。彼はきっと動物園よりも博物館や科学館の方が好きなのだろう。
「そうだよ。知らなかった? 私、いつも学校の猫ちゃんにもご飯あげてるじゃん。わざわざ猫ちゃん用のご飯持ち歩いてるんだって、前話したでしょ」
「マジかよ。あの猫たち、ボランティアの生徒が管理してんだから、やたらめったら餌あげんなよ」
すぐに揚げ足を取る。いちいち険のあるその返しに、ため息をつく。
「……将吾って、ほんと私のこと興味無いよね」
呟きは、将吾の耳に届くことなく地面に落ちていった。
〝昭島くんてさー、カノジョいるの?〟
不意に、そう将吾に聞いた時のことを思い出していた。
講義が終わり、たまたま横にいた将吾と廊下に出た時のことだった。
そんなことを聞いたら、彼に気があるってバレるかもしれない。でも私はそれで構わなかったから、躊躇は無かった。
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