6人が本棚に入れています
本棚に追加
〝別に、いない。いたことない〟
その返事に、私は心の中でガッツポーズをしたものだ。
それにしても、いたことないなんてはっきり言うんだな。
そう思った。たしかに将吾はそこまでイケメンでもないし、愛想も無いからモテそうな感じはないけれど。
でも、せっかくニンゲンに生まれてきたのに。
恋のひとつもしないなんて。もちろん今の時代、恋愛や結婚が全てではないけれど。
そんなことを考えていたら、ダイレクトに言葉が出てしまった。
〝じゃあさー、私は、どう? 今超お買い得だよ。……なんちゃって、趣味じゃない?〟
あの頃から、将吾は何も変わっていない。
どこか冷めた態度。よく言えば淡白。それが彼の性格なんだろうけど。
彼は私が好きな動物も覚えていない。デートも私が誘わなければ、永遠に行くこともない。
そもそも恋愛に興味が無いのかもしれない。私が強引に始めた交際は、結局私だけが空回りしている。
それでもいいと、思っていたけど……。
ふと、掌を広げる。
五本の指が今、たしかにここにある。せっかく、ここにあるのに。
〝私にもし想い合える相手がいたのなら、もう他には何もいらないのに〟
――あの言葉は、私の心の声だったんじゃないだろうか。
最初のコメントを投稿しよう!