もしもの話

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  〝別に、いない。いたことない〟  その返事に、私は心の中でガッツポーズをしたものだ。  それにしても、いたことないなんてはっきり言うんだな。  そう思った。たしかに将吾はそこまでイケメンでもないし、愛想も無いからモテそうな感じはないけれど。  でも、せっかくニンゲンに生まれてきたのに。  恋のひとつもしないなんて。もちろん今の時代、恋愛や結婚が全てではないけれど。  そんなことを考えていたら、ダイレクトに言葉が出てしまった。 〝じゃあさー、私は、どう? 今超お買い得だよ。……なんちゃって、趣味じゃない?〟  あの頃から、将吾は何も変わっていない。  どこか冷めた態度。よく言えば淡白。それが彼の性格なんだろうけど。  彼は私が好きな動物(こと)も覚えていない。デートも私が誘わなければ、永遠に行くこともない。  そもそも恋愛に興味が無いのかもしれない。私が強引に始めた交際は、結局私だけが空回りしている。  それでもいいと、思っていたけど……。  ふと、掌を広げる。  五本の指が今、たしかにここにある。せっかく、ここにあるのに。 〝私にもし想い合える相手がいたのなら、もう他には何もいらないのに〟  ――あの言葉は、私の心の声だったんじゃないだろうか。  
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