第1章

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「山本」 会社に着くと、同僚の小山が少し不機嫌な顔をしながら近づいてきた。 「おはよう」 「あの後、二人で何処に行ったんだよ。須川に聞いても教えてくれないし」 「ランチしただけだよ」 「何だよ。ランチだけかよ」 「どうして?」 「別に何でもないよ」 そう言うと、小山は売り場に戻って行った。 私が働いている会社は、東京の中心にある結構有名な書店。 働きだして、今年で3年目になる。 小山は同期。 そして、須川さんは今年の春に移動してきたばかりで、3階の洋書担当。 で、私と小山は2階のコミック担当。 始めは、小山と意見の食い違いでよく喧嘩していたけど、最近は良い同僚って感じになっている。 「山本さん、おはよう」 須川さんがいつものスマイルで、手を振りながら近づいてきた。 「おはようござ…」 私もにっこりと笑顔で返そうとした瞬間、耳元で須川さんが呟いた。 「今日も可愛いね」 ちっ、近い。 私は驚いて後ずさろうとして、足が絡まって転びそうになった。 「あっ」 その瞬間、素早く須川さんは私の手を取ってくれたから、転けることは免れたけど、何故か抱きしめられていた。 「ごめんなさい。ありがとうございます」 私は慌てて須川さんから離れると、その場から走って逃げた。
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