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僕はその流れで、弓と矢を持ち、射場に入る。
座って、180度回って、矢を番える。自分が弓を引く番まで、正座の状態から左膝とお尻を浮かせた、跪座という座り方で待つ。
高鳴る鼓動。自分にしか聞こえない緊張の音。
2つ前の人の弦音──矢を放った時にする弦の音──が鳴った。僕は更に早まった鼓動を独り感じながら立ち上がる。
的を見、足を踏み開いた後、目の高さまで上げた弓をゆっくりと左膝頭の窪みまで下ろす。
深呼吸……深呼吸……荒れ狂う心臓を抑えるには深呼吸をしなくっちゃ。今度は、手に汗までかいてきた。
前の人の弦音が鳴った。鳴ってしまった。
僕の番が来てしまった。仕方なしに弦を親指に引っ掛ける。
静かな張り詰めた空間の中、僕にしか聞こえない普段より数倍大きい心臓のリズムがバクバク音を鳴らしていた。
ドクドク、バクバク、ドクドク、バクバク──
そんなある意味規則正しいリズムで僕の身体中を荒れ狂う血液。
もう一度息を吸ってみた。そして二酸化炭素と一緒に今要らないものは吐き出した。
よし。今ならいけるかも。
弓を少し押し開き、その形のまんま両拳を上まで持ってくる。チリチリ、チリチリ、と耳元で音がする。的だけに集中。勢いのまま、引き分ける。狙うは的の真ん中。そこに向けて弓をしっかりと押す。
もう少しで離れそう……
そう思った刹那、妻手──右手──が無意識に弦を離し、矢が放たれた。
その矢は的方向に真っ直ぐ、真っ直ぐ、まるで吸い寄せられるように飛んでいき、「パンッ!」
気持ちいい音を鳴らした。
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