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私は駅に着くと、駅直通50階建、勤務先の建設会社のオフィスビルに入る。
いつもの慌ただしい光景。1階のロビーはガラスの吹き抜けで、床は夏でも冷たいマーブル。
その床を踏み鳴らす多くの人の足音が、私を戦闘モードに変えていく。
ロビーを抜けて、エレベーターの列に並んでいると、「おはよう」
後ろから聞きなれない声がした。
振り向くと、そこには、九州に転勤したはずの同期の哲也がいた。
彼は、5年前、まだ私たちが、入社して間もない頃、すぐに九州に異動になっていたのだ。
「え?」
私は、心臓がドキドキと高まるのを感じた。
私は、5年前彼を振ったのだ。
二重まぶたがくっきりした、所謂イケメンの、5年前と変わっていない彼がいた。
彼は、転勤で明日引っ越しという日、私に告白した。だってまだ手も握ったことない同期なのに 結婚を前提に付き合ってほしい!と。
「え、だって、私入社して、半年だよ。無理だよ。」
確かに、お互い惹かれあってはいた。でも突然過ぎるよ…。
「そっか。いきなりすぎたよね・・。」照れながらそう言ってたっけ。
九州に行ってから少しの間、哲也からよく電話がかかってきた。私は仕事が忙しくて、疲れていて、あまり電話で愛想がなかった。そのうちに電話が途絶え、私のほのかな恋心も自然消滅した。
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