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「ちょっと!」
突っかかろうとしたガブリエラをシシクは静止した。
「俺は主人の警護をしていたのさ。骸骨が出て人を攫ったって聞いたものでね。追いかけたら死体を見つけた」
正直に報告するシシクに、彼らは騒めく。その内容は勿論のこと、加えて彼の言葉には異国の訛りがほとんどなかったからだ。東洋人にしては珍しかった。
「詳しく聞かせて貰おうか」
ひとりがシシクの腕を掴み、その間にも背後に回り込まれる。まるでシシクが犯人だと決めつけているかのような扱いに、ガブリエラは動揺した。
「待って、シシクに何もしないで。わたしの従者なの。本当よ」
「お嬢ちゃん」
シシクから離れず、警察を引き剥がそうとする彼女に、彼らはやんわりと声をかける。
「怖かったね、もう心配いらないよ。だから、奴の言う通りにしなくて良い」
「だが、君にも少々付き合って貰うがね。まずは名前を聞かせて欲しいんだが、構わないかな?」
「シシクは、わたしの従者。わたしの大切なひとだって言っているでしょう……」
怒りと恐怖にガブリエラの声が震える。
だが、彼らは「可哀想に」と言う目で彼女を見るばかりだ。どうやら本気で彼を誘拐犯だと思っているらしい。
――何故このひとたちは聞いてくれないの。
焦るガブリエラを、縄で縛られたシシクは見つめることしかできない。下手に喋れば痛めつけられるだろう。そんな姿を彼女に見せたくなかった。
代わりに、彼はその瞳で宥めた。「心配するな、余計なことしなくていい」と。それが返ってガブリエラには心強く感じられた。
「クロフォード準男爵が長女、ガブリエラ・クロフォードよ。パパを呼んで」
彼女は気品高く、堂々と名乗りをあげた。
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