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少女の主張にシシクは頭を掻きつつ、ふたりに聞こえぬよう小さくボヤく。
主人とはいえ、ガブリエラの世間知らず振りにはほとほと呆れている。危険な目には何度も遭っているはずなのだが、彼女は微塵も振り返ろうとはしないのだ。
「平気じゃないよガブリエラ! これは君が女の子だからじゃないんだ。仮に君が男の子だったとしても……」
「もう、五月蝿い!」
娘の怒鳴り声に遮られ、しおしおと小さくなるクロフォード。最早娘よりも小さく見える。と、よろけるように立ち上がった彼は、今度はシシクの元へとやって来た。そして、弱々しく従者の手を取る。
「シシク、何とか言っておくれ……。私にはもう無理だ……。ガブリエラと一緒にいる君なら……」
頭を下げる雇い主に、今度はシシクが慌てる番だった。
「旦那様、困りますから顔をお上げください。ほらガブリエラ、見てみろこの状況!」
「シシクは黙ってて!!」
従者にもギャンギャン吠える様に、シシクは思わず隣家で買われている小さなスパニエルを思い浮かべた。誰とも構わずに牙を剥き出しにして吠え立てるのだ。今の彼女は、あの甲高く鳴く仔犬にそっくりだった。
「こりゃ大変ご立腹だ。申し訳ありません、旦那様。あれだけ憤っているお嬢様には悪魔も寄り付かんでしょ」
「そ、そんなことはない……! あんなに可愛い娘だ、悪魔のひとりやふたりは必ず寄り付く!」
顔をキリッとさせながら豪語するクロフォードに、シシクは乾いた笑いしか出せなかった。
「パパ、わたしもう寝るわ! 寝不足なんだから休むはずだったわよね?」
これは、早く出て行けの合図だ。反抗期真っ只中の娘を相手にするクロフォードには同情を禁じ得なかった。
「ああ、わかったよ。すまなかったね、ガブリエラ。ゆっくりお休み」
「シシクは」
「彼とは話があるんだ。シシク、一旦出よう」
「かしこまりました」
彼は一礼し、目で訴えてくる小さな主人に目配せする。「終わったらすぐに戻るから」と。
「すまないね、シシク……シシク・サクラマ。いつも迷惑ばかり」
扉を閉めて開口一番、クロフォードは再び頭を下げる。改めるかのようにフルネームで呼ばれると、内心慌てるどころの騒ぎではなかった。
「すまないね、シシク……シシク・サクラマ。いつも迷惑ばかり」
扉を閉めて開口一番、クロフォードは再び頭を下げる。
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