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「僕の名前は、冬口銀之助と申します。早慶大学文学部フランス語学科の、3年Q組です。大学へ抗議したければ、どうぞ。それでは」
そう言ったなり、プイっとブースから出てやった。後ろから、ブレザーが大声でこちらを呼び止めるのが聞こえたが、振り向きもしなかった。その時の自分は、まあ若気の至りとでも言おうか、「オレはブレザーを打ち負かしてやった」と少し得意の気分でいたのだが、出てみると、企業の人間も黒い物体も、やけにじろじろとこちらを見てくる。まあ、あれだけブレザーがわめいていれば、嫌でも周囲の耳目を集めるだろうが、どうも、好意的な情を感じない。他の企業のブースに入ろうとすると、担当者は皆、判を押したように顔を背ける。自分たちのブースに入ってほしくない素振りを見せる。黒い物体は物体で、誰もオレに近づこうとしない。「珍奇なものを見つけた」とばかりに、遠巻きにこちらをちらちらと見るばかりである。面白くない。馬鹿らしくなって、そのまま会場を後にした。去り際に、ブレザーの嘲笑が聞こえた。
「お前のような非ジョウシキな坊ちゃん、絶対に就活で苦労するぞ!」
確かに、この調子ではそうだろうなと、始めてブレザーの言葉に同意した。
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