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 大学に居た時分にも、持ち前のあまのじゃくから顰蹙を買った。あれは大学に入ってまだ2か月か3か月ばかりの頃で、いくつか出来ていた「仲良し?グループ」のひとつと、3回目ぐらいの飲みの席を囲んだ時だと思う。店に入り、最初の注文をし、自分の料理が一足先に運ばれてきたので早速いただこうとすると、  「銀之助ってさ、自分の料理や酒が来たら、すぐに食べ始めるよね」  出し抜けに、非難がましい目でこう言われた。何がおかしいのか分からず、ただそいつのことをポカンと見つめていると、  「フツウさ、他の人の料理や酒が来るのを待つでしょ」  テーブルを囲む他の人々も、  「そうそう」「気になってたんだよね~」「ひとりで、そんなに躊躇なく食べ始める?フツウ」  などと言い出す。別にこっちだって、お陰様で毎日三度三度の食事を食べさせてもらっているのだから、他の人の料理や酒を待つことくらいわけはない。わけはないのだが、それはそれとして、先に運ばれてきた自分の料理や酒に手を付けることが、そんなに悪いことなのか。何も、他人の分を強奪したわけではない。貧しい者を目の前にして、これ見よがしに飲み食いしているわけでもない。自分の頼んだ物を、自分の好きな時に消費しただけだ。相手の分だって、すぐに来る。それなのに、なぜ「最初のひと口は皆で一緒に」と決め、それを破った者に対して、かほどの非難を浴びせるのか。こう反論したところ、  「いやー、やっぱりおかしいよそれは」「うん、フツウは待つよね~・・・」  やはり納得できぬ、よく分からぬ答えが返ってきた。この時は、それ以上の反論はしなかったが、無論、行動の方は改めなかった。むしろ、自分の料理や酒が先に来たときは、意識的にひと口付けるようになっていた。たとえ腹が減っていなくても、本当は大して酒を飲みたくもない時でも、ひと口付けた。そうしてそのたびに、厳しい非難の声を頂戴していた。結局、入学当初にいくつかあったはずの「仲良し?グループ」が実際に「仲良しグループ」に転化した割合は少なかったが、このようなひねくれた行動さえ改めていれば、少しはこの割合も増えていたのかも知れぬ。やはりこれも、今となっては残念な気がしなくもない。
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