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就活の時も、だいぶ苦労した。何せ、大学生活の間中、これといったことは何ひとつしてこなかった。バイトリーダーなり、サークルの部長なり係なり、何かしらの形で奮闘した経験など皆無。海外を巡って新しい価値観に気が付いたり、学生団体に所属して何かを成し遂げたりもなかった。ただ毎日をフラフラぼんやりと生きて、何とか留年しない程度に試験勉強をしてきただけだ。新たに得た知見といえば、「二日酔いの恐ろしさ」と「麻雀の役」くらい。これでは、「学生時代に頑張ったこと」欄を埋めることが出来ぬ。
だがそれ以上に厄介であったのが、己の心内のあまのじゃくであった。就活を始めた直後、企業の合同説明会というものに参加してみた。別に、お目当ての企業が参加していたからであるとか、そんな大層な理由からではない(そもそも、ぼんやりと生きてきた者に、「お目当ての企業」などハナから存在しない)。ただ、どこで住所を知ったのか、さかんに案内のチラシが届くものだから、「それなら、ひとつ行ってみるか」と思ったまでである。で、何の予習もせずに、入学式以来初めてスーツを着て行ってみたら、驚いた。高校の体育館のようなだだっ広いところに、数百人いや、ひょっとしたら千人以上の黒い物体が、うじゃうじゃとうごめいている。そして、その黒い物体が、ところ狭しと設けられた企業のブースに、ひっきりなしに出たり入ったりしている。異様な光景だった。見ているうちに、自分がこの「黒い物体」たちの仲間に入るのが嫌になった。よほど、回れ右をして帰ろうかと思ったが、それでは往復の交通費が無駄になる。仕方がない。えい、ままよとばかりに、会場に足を踏み入れた。そのまま、適当に目についたブースに飛び込んだ。
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