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何が可笑しいものか。「思い出した」と言うから何かと思えば、出てきた答えが「早起きしなきゃいけないこと」とは!こちらが真面目に聞いているのに、馬鹿にしてやがる。こりゃあ、適当なことを言って、オレの質問を誤魔化そうとしているのだな。そんな風にブレザーに対して呆れるとともに、周りの先客にも呆れた。一体、こんな薄っぺらい答えのどこに笑える要素があると言うのか。腹立たしく思わないのか。それとも、本当は少しも面白くもないのに、「採用担当者」だというこのブレザーに対して、卑屈なお追従笑いでもしているのか。とにかく、こんな軽薄な奴らとは話にならない。さっさと他の会社のブースに行こう。そう思い、軽く会釈をして席を離れようとすると、
「あ、それとね、キミ、こういう場で質問とかする場合は、会社のことは『オンシャ』って呼ぶんだよ。『この会社』じゃなくてね。ジョウシキだよジョウシキ・・・みんなも気を付けてね!じゃないと、苦労するよ!」
後で知ったのだが、相手の会社のことを二人称で呼ぶ場合は、「御社」と呼ばねばならないそうだ。だが、何の予備知識もなかったこの時は、そんなことは全く知らなかった。そんな自分に対し、ブレザーは如何にも懇切丁寧に教え諭すかのような表情でこう言い、周りの先客たちはまた「ははは」に笑った。その笑い声の中に、「そんなアタリマエのことも知らないのか」「少しは勉強してから来たまえ」などという意地の悪い空気を感じた時、例の「あまのじゃく」が頭をもたげた。よせばいいのに、席を離れかけた体を戻し、再び正面からブレザーに向き合った。
「はあ、そうですか、ありがとうございます。せっかくなので、『この会社』についてもう少し質問させていただけませんか?」
誰かが小声で「また、『この会社』って・・・」と言うのが聞こえたが、構いやしない。一方、ブレザーはブレザーで、
「ええ、もちろんですとも!なんでもどうぞ!」
芝居がかった動きで大きく手を広げて見せる。それを見て、周りもまた笑ってやがる。いちいち、癪に障る空間だ。
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