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番《つがい》
「佐助……私の佐助……」
白い首筋に唇を這わせながら嵬仁丸が何度も愛し気に名を呼ぶ。
「このような日がやってくるとは……夢のようだ」
ただ体が欲しいだけなら、いくらでも力で捻じ伏せて思いのままにできただろう。
けど、嵬仁丸様の欲しいものはそれだけでなかったんね、おらの心ごと全部欲しがってくれたんね。
そう思うと佐助の胸はきゅんきゅんと鳴く。
激しい雷雨をもたらした雲はもういずこかへ去り月が出たのか、天井の明り取りの水晶を通って柔らかな光が幾筋か落ちてきている。
嵬仁丸の長い髪がその光にきらきらと輝き、さらさらと佐助の頬を撫でる。
佐助の頬や胸を撫でさすっていた大きな手が、着物の腰の紐をほどき合わせを割り開いた。
ほうっと嵬仁丸が甘い溜息をつき、呟く。
「ああ、お前は美しいな……」
「う、美しい!?」
およそ自分を表すのに相応しくない言葉に驚いて、佐助は口をぽかんと開いてしまう。
「ふふ、お前は自分の美しさにまるで気づいていない」
もっとよく見せろと嵬仁丸は佐助の身に纏うものを全て剥ぎ取り放り投げる。深い桑の実色の敷布の上に横たわる白い肢体に嵬仁丸はうっとりとした表情を見せた。
上から見下ろしながら、まるで歌でも歌うように言葉を並べる。
「すっと通った鼻筋に、黄金色に煌めく大きな目。形良い唇はまるで桃の花の色のようだ。
しなやかな肢体は辛夷の花のように穢れなく純白。雄のしるしまでなんと美しい色か」
今まで自分の容姿は嫌悪の対象だった。貶され気味悪がられこそすれ、褒められたことなど一度も無かったのに、歯の浮くような言葉を並べられ、おまけに変なところまで褒められ、気恥ずかしくて体が熱くなる。
そうすると今度は、顔や胸が桜の色に染まったと愛でるのだ。
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