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ある朝目が覚めると私の小指の先には、真っ赤な糸が結ばれていた。
全く身に覚えのないそれを、寝惚け眼のまましばし見つめた。
そして脳が覚醒してくると、くいくいとその糸を引っ張ってみた。
しかしこの、謎の糸。
何をどうやっても、ほどけないのだ。
ただの蝶々結びのはずなのに...何だ、これ。
私は頭をガシガシと掻き、むくりとベッドから起き上がった。
キッチンに向かうと既に、朝食の用意は出来ていた。
しかし私の目は、焼き立てのパンよりも、美味しそうに湯気をあげる目玉焼きよりも、母親の指先に釘付けになった。
そう、そこには私のと同じ、赤い糸が結ばれていた。
「お母さん、その小指...。」
思わず、指差した。
母親は不思議そうに自分の小指を見つめ、『何も無いじゃない、変な子ね。』と言い、笑った。
その時父親が、笑顔でドアを開けた。
「なんだ、朝から。
やけに楽しそうだな。」
そう言った彼の指先には、私と母親の小指に結ばれているのと同じ、赤い糸。
そしてその糸を目で追うと、父と母のそれは、しっかりと繋がっていた。
既に朝食を終え、テレビを観ていた祖母の指先を見ると、やはりそこにも赤い糸が。
でもその糸は真っ直ぐと上に伸び、天井を突き抜けているみたい。
そこで私は、ある事に思い至った。
...これってまさか、『運命の赤い糸』?
だとしたら、合点がいく気がした。
祖母の『運命の人』である祖父は、三年前天に召された。
そして父と母は、娘の私が見ても恥ずかしくなるほどのラブラブっぷりだ。
何で急にそんなものが見えるようになったのかなんて、私にも分からない。
では私のこの、糸の先にもやっぱり...。
「何だよ、姉ちゃん。
朝からニヤニヤして、気持ち悪ぃな...。」
背後から聞こえた、失礼極まりない言葉。
そこに立っていたのは、私の5つ年下の弟だ。
そして彼の小指の先にも、赤い糸。
その糸はキッチンの窓を通り抜け、どうやらお隣に引っ越してきたばかりの少女へと繋がっているみたいだった。
ほぉほぉ、二人はそういう運命なのね...。
益々にやける、私の顔。
「生意気なヤツには、教えてやらん!」
私は笑いながら、答えた。
家族は皆、不思議そうにそんな私を見つめた。
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