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『視えているのだろう』
黒い大きな犬が話しかけてきた。
突然の声にビクリと身体が強張る。
ベランダの窓からさす夕焼けはすっかり姿を消し宵闇が支配する。
暗闇の中にでもくっきりと浮かび上がる獣の姿に強いアヤカシなのだと、つばさは理解した。
そろりそろりと部屋の出入り口に移動する。
いざとなれば逃げられる準備はしておきたい。
扉の向こうには父が不慣れながらに料理をしている音がする。
黒犬が窓を開けようとサッシをカリカリとするのだが、獣の足では開けるのが難しいのか、何度やっても足を引っかけるだけだった。
『開かねぇ! 開けろっ!』
そんなことをいわれても怖くて近づけない。
「だ、誰?」
普段だったらアヤカシに声などかけないのに。
『あああぁ? 俺様はなぁ、朱いのの使いで来てやったんだ!』
アカイのって何だろう。
ふと額を触っている。
『まぁいい。俺様は言伝を頼まれただけだ』
「コトヅテ?」
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