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『お前に火を灯してほしい。今の綾瀬の家は暗いままだ。灯りがないと悪いモノが幅を利かせてきやがる』
「……お犬さんは悪いモノじゃないの」
『俺様のどこが悪く見えるっ!』
ただ黒いだけだ。
『俺様はかっこいいんだぞっ!』
ふんっ、自慢げに鼻を高く上げ座って地についている尻尾を上下に揺れている。
その姿は初めの怖い印象をだいぶ和らげた。
少しだけ躊躇はあったが、つばさはベランダの窓を開けた。
ヒヤリとした夜風が秋の匂いを運んでくる。
「わたしになにができるかなぁ」
『綾瀬の家にくればいい。行き方はあの明るいのが知っている』
明るいの?
「つばさ、お母さんが目を覚ましたみたいなんだ。今から病院に一緒に行くかい」
父の声がした。
『俺様はあいつが苦手だ』
ぶるぶると全身を震わせ毛並みが逆立つ。
『要件は伝えた。待っている』
ノックの後、父が入ってくると部屋は途端に明るくなった。
父の清浄な気が魔を寄せ付けないのだ。
「窓、開けたのかい」
振り返ると黒犬の姿は消えていた。
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