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「…………」
今まではたわいのない話をどうやってしていたのだろう。
家族、じゃないと一線を引いてしまっているのはつばさだけではないのか。
父母はいつものように接してくれているというのに。
「ほらつばさ、お母さんに言うことがあるだろ」
父に促され、きゅっと拳を握りしめた。
緊張のあまり喉が張り付いて上手く声が出なかったが、
「わたし、――綾瀬の家に行くね」
意志だけは伝わったのだろう。
朗らかにしていた母の表情はすっと真剣になる。
「お役目を果たしに行くのね」
母はこの別れを惜しみたかったのだ。
いつまでも吾妻の娘としてそばに置きたかった。それが叶うことはないと、娘の成長につれてうすうすと感じていたのに。
「うん」
綾瀬の家に行くことでつばさの運命はどう変わるのか、誰も知る由もなかった。
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