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右手には池が広がり石橋がかかっていた。それが唯一の交通手段で、その向こうには離れがあった。
(あのおウチは綺麗だな)
父兄とは違う清められた空気が醸し出されている。
(水のカミサマがいるのかなぁ)
ふと今までとは違う感覚につばさは戸惑った。今までは息をするのも父兄のそば以外では苦しかったのに、綾瀬の家に来てからは心身が満ち足りているのだ。
感覚が研ぎ澄まされている。
それはいいようのない充足感だった。
「お父さんどこ行くの?」
てっきり母屋の方に足を向けるのかと思ったが、左手に脇道を抜け獣道のように細い小径を進む。
木々に囲まれ姿を現したのは、今にも崩れ落ちてしまいそうなほど年数のたった古い家屋だった。
周囲にはまだ色づいていないモミジの木が植えられている。
(モミジ……)
この家に住んでいるのが誰だがすぐに理解できた。
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