つばさ

19/22
前へ
/230ページ
次へ
   右手には池が広がり石橋がかかっていた。それが唯一の交通手段で、その向こうには離れがあった。 (あのおウチは綺麗だな)  父兄とは違う清められた空気が醸し出されている。 (水のカミサマがいるのかなぁ)  ふと今までとは違う感覚につばさは戸惑った。今までは息をするのも父兄のそば以外では苦しかったのに、綾瀬の家に来てからは心身が満ち足りているのだ。  感覚が研ぎ澄まされている。  それはいいようのない充足感だった。 「お父さんどこ行くの?」  てっきり母屋の方に足を向けるのかと思ったが、左手に脇道を抜け獣道のように細い小径を進む。  木々に囲まれ姿を現したのは、今にも崩れ落ちてしまいそうなほど年数のたった古い家屋だった。  周囲にはまだ色づいていないモミジの木が植えられている。 (モミジ……)  この家に住んでいるのが誰だがすぐに理解できた。  
/230ページ

最初のコメントを投稿しよう!

127人が本棚に入れています
本棚に追加