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敷地内ではあったが呼び鈴を鳴らす。
しばらくして戸を開けたのは柊護だった。
「お兄ちゃん……!」
「え、つばさ……、……つば、さ……なのか?」
困惑した顔が物語っていた。
とうとう魔法がとけてしまった。
吾妻つばさという妹は実は全く赤の他人でした。
十二年間過ごした日々は偽りの家族でした。
ごめんなさ――、
「つばさだろ。柊護」
ポンと頭に乗せられた父の手は大きく、それはいつもと変わらなかった。
「あ、うん。朱葉さんが奥で待ってる」
「さんじゃなく、様な」
「う……」
珍しく厳しい口調の父に驚きながら、靴を脱ぐ。端に置こうとすると、様子をうかがっていた爬虫類の影が、わたわたと逃げて行った。
柊護を先頭に、きしきしと鳴る廊下を歩きながら、あたりを見渡す。
漆喰の壁はボロボロで天井は薄暗く梁の部分には蜘蛛の巣がはっていた。
何年も掃除も修繕もされていないのだろう。
ようやっと息をしている、そんな古い家。
奥の部屋。黄色い蝶が舞う襖の前で柊護が声をかける。
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