つばさ

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  「朱葉さん、父と妹を連れてきました」 「様!」  いいよ、と襖の向こうで声がする。  通された部屋は寝室で、大きなベッドに小柄な少女が身を起こしていた。  病弱なのか顔色は良くない。 「清さん、柊護のこといじめないで」 「申し訳ありません。作法には厳しく育てたつもりなのですが。それから、妻への一件ありがとうございます」 「いやいやー。柊護クンにはとても助けてもらってますよー。この前なんて、足の爪切ってもらっちゃったし」  にこっ、とつばさにだけわかる揶揄(からかい)を向けてくる。 ≪あんたの大好きなお兄ちゃん、とっちゃってごめんねー≫  と、ピリピリとした空気に父兄は全く気づくこともなく、 「柊護、お茶持ってきてくれる。清さんも一緒に。ちょっと女の子同士で話したいこともあるしー」 「そうですね。つばさ大丈夫かい?」  父の声に空返事になったのははじめてだった。 「うん。平気」  それでは、と父兄が出て行ったとたん、部屋はざわりと黒い霧に包まれた気がした。  それほどまでにこの家はケガレに満ちている。息が苦しい。  
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