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第二音 黒猫
「おいお前、」
男の人に声を掛けられ慌てて、少し震えながら声のしたほうへと向く。
「ここは俺の縄張りだ。なにをしている?」
そこにいたのは人ではなかった。黒い毛で、左目に大きな傷跡のある、自分より少し大きいぐらいの猫だった。その猫は木の上から片方だけの赤い瞳で夏目をにらんでいた。
「えっと、ごめんなさい。その…僕、そういうの知らなくて。あの、ごめんなさい、すみません。」
人(?)と話すなんて久しぶりだ。うまく舌が回らずたじたじとして口調になってしまった。それに、睨まれていることにびびって、つい癖が出て謝るのを繰り返してしまった。
「そんなに謝るな、耳が痛い。…ところでお前、見ない顔だな?」
黒猫はすっと立ち上がると木からするすると降りてきて。夏目の目の前たち、じろじろと夏目を見回す。
「どこから来た?」
しばらく見回した後、そう夏目に尋ねる。
「えっと、あそこからです。」
そういって屋上を向き示す。
「…。」
黒猫はじーっと夏目を見て黙る。
「…。」
夏目も緊張しながら黙る。
「ぷはっ、お前面白いやつだな?」
笑いを堪え切れなかったかのように黒猫が吹き出す。苦しそうに笑いもがいている。
「え?」
何故黒猫が笑っているのか分からなく、ぽかーんと口を開け固まる夏目。それを見て、黒猫が
「だって、くくっ。お前、空から来たんだろ?」
指したところは屋上だったのだが、黒猫には空に見えたようだ。
「ちょっ、そんな…」
夏目は慌ててその誤解を訂正しようとするが、
「お前気に入った。名前はなんていうんだ?」
笑い終えた黒猫が、そう明るい声で訊いてきたので
「あ、天野夏目…です」
そう、答える。すると黒猫は首を傾げ
「まるで人間みたいな名前だな?」
と、呟く。それを聞いて夏目は
「だ、だって僕は人間だから!」
そう、慌てて答える。するとまた黒猫は笑い
「お前やっぱり面白いな!お前が人間なわけないだろ。誰がどう見たって猫だ」
という。夏目は、自分がやはり猫になってしまったらしいと思う。
「俺はクロ。ここら一帯は俺、いや俺らの縄張りだ。今日からナツメ!お前も俺らの仲間だ」
そういって「クロ」と名乗った黒猫は猫なりにニッと笑う。
「さあ、ついてこい。お前を仲間のところに案内してやる」
そういって黒猫は歩き出した。
「ナツメ…か…」
そう、ぼそりと呟きながら…
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