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第三音 猫の家
クロについていき、路地裏へ。狭いブロック塀の間を通り抜け、自販機から家の屋根に上り、伝い。気が付くと、町の中心部から少し離れた小さな森林の中を歩いていた。ここには来たことがある。まだ、父がいなくなる前。遠い昔、その父が連れてきてくれたのだ。
「たしか…」
今歩いてる道を抜けると、そこにぼろぼろの古家があったはずだ。
「もう少しだぞ」
クロがやっと振り向いてそういう。それは、この道を抜ける寸前だった。
「わぁぁ…」
道を抜けるとそこにあったのは、あの時の古家ではなかった。見た目は最近の家のようではないが、新しく、きれいな曲がり屋だった。
「ただいま、かえったぞ」
クロがそう言ってその曲がり屋の戸の前に座る。すると、しばらくして
「おかえり、クロ。今日の散歩は長かったみたいね?」
そういって、腰ぐらいまである黒髪の白いワンピースを着たきれいな女性が戸をあけて出てくる。クロから少し離れていたところに座っていた夏目は、少し見とれてしまい固まっている。
「あれ?新しいお友達?」
夏目を見て女性は少し嬉しそうな声でクロに尋ねる。
「ああ、新入りだ。名前はナツメっていうそうだぞ」
そう答えると、クロは女性の横を抜け家の中へと入っていく。
「ええ!?ナツメっていうの?」
とても驚いた表情を浮かべた女性は、夏目の近くに来ると
「あのねー、私も夏芽っていうんだよ?白河夏芽」
そう言って微笑む。
「えっ、あっ…そ、そうなんですか!ぼ、僕はっ、河野夏目って言いま、す」
きれいな女性に話しかけられたことなんてないから、またたじたじとした返事を返す。と、ここで、少し感じていた違和感に気づく
「あれ…?なんで、僕としゃべれるんですか?」
自分は日本語も普通にしゃべれるのだろうか?しかし、そうするとクロはどうなのか。彼はただの猫、だと思う。その問いに対し夏芽は、「秘密なんだけどね…」と小さな声で話始める。
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