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「ぬいぐるみに嫉妬? 可愛くないんだけど」
これはほんのちょっとだけ嘘。もし捨てられていなければ、可愛いと思う余裕もあったかもしれない。が、今の私はそんな気分にはとてもなれない。
「だってお前、男の名前、呼んでただろ。どう考えてもぬいぐるみにつける感じじゃない名前を! 来年には結婚するのに、前の男からのプレゼントそんなに大事にされてたら、そりゃオレだって……」
「ッ……!」
聞かれてたのか! あれを!
その名前というのは、当然アレだ。私の……男であることと一緒に、捨てた……名前。
「ほら見ろ、図星だ」
「ち、違うの、あれは……」
婚約者がまったく知らない男の名前を呟きながら、くまのぬいぐるみを大切にし、あまつさえ抱いて寝ている。
捨てたのは許せないけど、私に罪悪感が産まれた以上、やや分が悪い。
「捨てる前に、問い詰めてくれたら良かったじゃない……」
「オレが捨てたら、忘れてくれるかと思ったんだよ」
「それは無理……」
「……そいつのこと、そんなに好きだったのか?」
「嫌いだった。私は、ずっとずっと嫌いだった」
「そこまで嫌いだったヤツの名前を……? まさか呪術的な……!?」
思いもがけない返答に吹き出して、私はついに降参した。
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