当てクマ

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当てクマ

 ずっと大切にしていたクマのぬいぐるみを、恋人に捨てられた。  どんな理由があっても人のものを勝手に捨てるなんて最低だと思う。それでも嫌いになれない自分が嫌だ。  私は泣きながら、ごみ捨て場を漁っていた。 「ユキ、もういいだろ。帰ろうぜ」 「一人で帰って」 「ユキ……」  あのぬいぐるみを買ったのは、私が『男であること』を捨てた日だった。自分のことはずっと女だと思って生きてきたから、捨てたと言うと少し語弊があるかもしれない。  悩んで、悩んで、死にたくなっていた24年間。苦しんだ私を完全になかったことにするのは、私には無理だった。そんな想いが全部詰まったぬいぐるみだった。 「お、お前が悪いんだぞ」 「はあ? 勝手に人の物を捨てておいてソレなの? もう信っじらんない……」  ケンゴは私がどういう意味を込めてあのぬいぐるみを買ったのか知らない。もし知っていれば、気持ち悪く思って捨てることもあるだろう。それならまだちょっとは納得がいった。  来年私は三十路になる。ケンゴはこんな私と結婚したいと言ってくれた。その矢先にこれでは、結婚後の生活なんて目に見えてる。 「お前、夜、あのぬいぐるみをいつも抱きしめて寝てるから」     
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