君への確かな想い

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なつきと出会って半年ほど経った頃、彼女に尋ねたことがある。 「恋人とは長いのか?」 なつきは普段余った時間で、整理整頓が苦手な俺の仕事部屋を片付けてくれる。 きっとその片付ける真剣な横顔や後ろ姿を眺めているなんて彼女は知らない。 その間普段はお互いに無言でいるが、質問してしまったのは先日行った飲み会の後、なつきの恋人が彼女を迎えに来たからだった。 二人の間で恋人の話題を出したのはこれが初めてだ。 なつきは驚いたのか、手に抱えていた書類を全て床に落とした。 「す、すみません……」 すぐにハッとしたように屈み書類を拾い始める彼女を手伝うため、俺も椅子から抜け屈んだ。 「すみません、大丈夫です……」 「いいよ、大丈夫」 拾い集めていく中で最後の一枚を掴む彼女の手と俺の手が触れた。 「キャッ……すみません」 すると、彼女は小さな恐怖を漏らし、手を離した。 これまでの経験上、触れることで相手が照れることはあっても拒絶をされたことはなかった。 「いや、大丈夫?」 「はい、すみません、申し訳ないです……」 彼女は手で手を包み、彼女自身にギュッと寄せると恐縮した。 彼女に踏み込むのは難しいことである。 結局、質問の答えも返ってこなかった。 でも、どうしても近付きたい。 自分の中の彼女への想いが強くなっていくのを感じた。
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