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「藤下もういいよ。一度家に帰っていいか?」
「もちろんです」
三上さんはバックミラーにサイドミラー、それから横を何度か確認した後、車を発進させた。
たぶんはるを警戒して、だ。
「すごい雨になったな」
「えぇ。すみません」
すると後ろからゆりが少し顔を出した。
「私、いつも折り畳み傘を持ってきているんですけど、昨日鞄を新調してしまって……なんかタイミング悪くて、すみません」
「いえ。通り雨は予測できませんよ」
私は身体ごと後ろに向けた。
ゆりは少し雨に濡れており、前髪を鬱陶しそうにかき分けながら、私を見つめる。
そして、小さな笑顔を向けた。
私もぎこちなく微笑み返す。
懐かしいBGMが車内を静かさを繋ぐ。
「……何、ここ」
三上さんのマンション、そして今の私の家でもあるマンションでもある駐車場に入ると、これまで黙っていたゆりが口を開いた。
「昨日から、ここに住んでいるの……」
「……なつきが?」
「うん。色々と、事情があって……」
その事情を今から話すのだけれど……と、心で続け息を大きく吸った。
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