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土曜の夜。
それは、私がはるの約束を守らなかった日。
はるから離れるきっかけになった始まりの夜だ。
「そのことを気にしているなら、俺、別に怒ってないから」
はるは「大丈夫」と言って、私の方へ身をのり出し、顔を私の顔に近付けた。
「はる……」
見慣れたはるの顔。
優しい表情をしている。
「こっちにおいで」
そう言ってはるは私の頬に手を伸ばした。
そして、穏やかな口調で「なつき、二人で話をしよう」と誘う。
「結婚のこととか、婚前パーティのこととか、話したい」
はるは土曜の夜だけでなく、引っ越しのことも責めもしない。
きっと、心の内には黒い感情が沸き起こっているはずだ。
「……はる」
「うん?」
「私……はるとは結婚できません」
ーー言った。
言ってしまった。
胸がひどくドキドキして、苦しくなった。
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