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口の軽さは社内一。
山内さんしか知らなかった私の引っ越し事情は、午前中の内に広まっていた。
はるという彼氏がいた。それは皆が知っていること。
だから、きっと変な目で見られるに違いないと覚悟していたが、戸惑うほど周りの目は温かかった。
それでも、希子さんだけはギクシャクしていて、様子を窺っているようだった。
自分のデスクでパソコンを入力していると、山谷さんが「ごめん、後でいいからこれ、三枚ずつコピーしててくれる?」と、書類の束を持ってきた。
「わかりました」
私は手を止め、付箋に“三枚ずつ、山谷さん用”と忘れぬようメモをする。
「なっちゃん、今日は顔色がいいね」
顎をくいっと持ち上げられる。
「……山谷さん」
ファンデをワントーン明るくしたわけでも、口紅の色を変えたわけでもない。
その理由はわかっている。
「三上は、いいヤツでしょ?」
山谷さんはどこまで知っているのだろう。
かあっと顔が熱くなった時、隣から「おい、何してるんだ?」と三上さんの声が割った。
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