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「いいわ。あなたは仕事に戻って」
「はい。タクシー来たら教えますね」
「ありがとうございます……」
男性店員は私に小さく頭を下げると、レジへと戻っていった。
「座られます?」
「あ、す、すみません……」
「こちらにどうぞ」
「失礼します……」
いかにも訳ありな私なのに、彼女は椅子を出してくれた。
せっかく薦められたので、ゆっくりと腰かける。
「大丈夫?」
「あ、はい。すみません」
「駆け込んで来るお客さまはあなただけじゃないから、安心してね」
「……え」
「若い女性もだけど子供も駆け込んで来るのよ。
あなたみたいな綺麗な子は大変ね。私はこんなに太ってるから怖いものなんてないけど」
彼女は自分の腹部を叩いて見せる。
たしかにふくよかではあるが、こういう時どう返していいのかわからない。
ただ気を遣ってくれているのはわかるので、小さく頭を下げた。
するとそこに「お客さん、タクシー来ましたよ」と先ほどの店員が戻ってきた。
「あ、すみません……」
「ここから出られますよ」
店員は外に繋がる扉を開けてくれた。
それから次に私の肩に触れ、外へ誘う。
瞬時ビクッとしたが、親切な行為だ。
グッと息を飲み、二人に何度も礼をし、店員と外に出た。
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