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「理巧」
「……え?」
「って俺のことも呼んでみて」
私に反して彼は余裕な表情で、両肘をデスクに付け手を組み、その上に顎を乗せ、私を見つめる。
期待されているのがわかる。
名前を呼ばれると嬉しかったように、彼だって同じ気持ちになるはずである。
“理巧”
簡単な二文字だ。
心の中では簡単に呼べる。
“理巧、理巧、理巧”と何度でも。
けれど、口にするのはなんて難易度が高いのだろう。
「……ごめんなさい。呼びたいのはやまやまなんですけど……」
手をギュッと前で握りしめた。
「恥ずかしくて……」
すると、彼は小さく吹き出した。
笑われた。
子供みたいだと思っただろう。
下唇を緩く噛み、上目遣いに見つめる。
「焦る必要はないないよ」
「……」
「そういうところも気に入ってるから」
さらに恥ずかしくなり、手で顔を覆う。甘い空気が耐えられない。
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