心も身体も満たされて

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「あの、昨日は大変お世話になりました」 翌日の仕事終わり、私はコンビニに足を向けた。 店内には店長と呼ばれていた女性は不在だったが、昨夜の男性はいたので、お礼をした。 菓子折りを渡す際、手が触れ震えたけれど、“この人は助けてくれた人だ”と思い、彼の目を見てゆっくりと手を離せた自分は進歩したのだと思う。 「あれからどうなりました?」 そう尋ねたのはゆりだ。 ゆりとはたまたま会う約束をしていたので、付き添ってもらっていた。 「あぁ、あの男、すぐにいなくなりました。知り合いなら警察に届けた方がいいんじゃないですか?」 「はるめ……」 ゆりが険しい顔を見せる。 「ストーカー被害に遭ってるなら早めに対処した方がいいと思いますよ?」 「いえ、大丈夫です。ありがとうございます。本当に助かりました。もう来ないはずです」 「……ならいいんっすけど……。また何かあればここに逃げ込んでください。俺、こう見えて黒帯なんで」 彼の自慢とするところなのだろうか。 二度目だと思い、「頼もしいです」とくすっと笑う。 すると店員が恥ずかしそうに頭を掻き「じゃ、これいただきます。ありがとうございます、失礼します」とスタッフルームへ消えた。
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