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不意打ちだったので、バスケットを掴む手が緩みそうになった。危ない。
りーちゃんを落としてしまいそうだった。
「……三上さん」
ギュッと自分へ引き寄せつつ、困り顔を作ってみせる。
本当は嬉しい。
だからきっとそれは隠しきれていないだろう。
「初々しいよな、お前って」
可愛いと言われるのは正直嬉しい。
けれど、初々しいと言われたことに、固まってしまう。
私とはかけはなれている言葉だ。
初々しく見えたとしてもそれは偽物で、本当は違うのだから。
胸の奥が嫌に痛む。
「……初々しくなんてないですよ……」
「え?」
「私が正反対なこと、三上さんよくご存知ですよね……」
せっかくの甘い雰囲気が私のせいで微妙になる。
でも、本当のことだ。
だって、そこが一番自信のないこと。
「ごめんなさい、変なことを言って……」
ーープッ。
後ろの車にクラクションを鳴らされた。
普通なら焦る状況なのに、今は気まずさを助けてくれたように感じ、ホッとする。
信号が青に変わっている。
彼は静かに車を発進させた。
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