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「なつき」
三上さんが優しく私を呼んだのはそれからしばらくして。
何を言われるか少し怖い。
「……はい」
声が震えた。
「俺も思い出したくないくらい恥ずかしい思い出や嫌な記憶はあるよ。だが、どうやっても過去は消せない」
その通りだ。
一人で過ごす暑い夜はあの日のことを思い出すし、見知らぬ男が近距離に来ると震える。
しっかりと身体だって記憶している。
彼がそっと私の手を握った。
なんだか泣きそうになり、下唇を噛み締める。
「でも気を紛らすことはできるから、もし俺が嫌な記憶を思い出した時は、なつきを頼らせて」
「三上さん……」
そんなことはきっとないに違いない。
「代わりになつきが嫌な記憶を思い出した時は、俺に甘えて。側にいたい」
「……」
耐えきれなくなった涙が溢れて、彼の手の上に落ちる。
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