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「はるはどうなりました……?」
ようやくそこに頭が回ったのは、帰宅してから。
理巧さんの淹れてくれたコーヒーが私の胸を落ち着かせてくれる。
「警察に引き渡したよ」
多くの人の目の前で、私を刺してしまったのだ。当然だろう。
私がもっと早く被害届を出していれば、結果はまた違ったのだろうか……。
「なつきは何も悪くないよ」
「……理巧さん」
彼は優しく頭を撫でた。
「……さて、なつきはどうしたい?」
「はい?」
「彼を殺人未遂で訴えるか?」
「え……!?」
“そんな大事になるの!?”
正直そこまでは考えてなかった。きっと、理巧さんが無事だったからだ。
「俺はそうしたいくらいだ。今回だけじゃない。あいつはなつきを……」
理巧さんが歯をくいしばる。
はるにはこれまでたくさんひどいことをされてきた。
結婚が決まる少し前に聞いた話だが、私が前回行った血液検査ではやはり睡眠薬が検出されたらしい。
今回のことに重ねこれまでのことを訴えれば、彼は重罪人になるだろう。
そして、今回のことだけ訴えても、これまでの経緯をきっと詳しく聞かれる。
そうすると私の忘れたい様々な記憶も必要になるだろう。
それは嫌だった。
もう、一刻も早く忘れたい記憶だ。
ようやく理巧さんのおかげで忘れていたのにーー。
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