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七夕の笹がさやさやと風に歌うような心地のよい夏の夜、業績好調を祝した私の勤務先である安村製菓のマーケティング部の恒例の飲み会が、会社の真向かいの小さな居酒屋で開かれていた。
時刻は22時。
皆、酔いもほどよく回り、砕けた感じになっている。
それぞれグループができており、私は平野部長の側につき、お酌担当を任されていた。
下っぱあるあるである。
「飯島さん、飲んでる?」
突然、部長と反対隣に春立栞が腰を下ろした。
その手にはビールとグラスがある。
私の横で飲む気でいるのだろう。
胸が密かに高鳴る。
なぜなら私は彼が気になっているからだ。
「はい、いただいております。春立さんは飲まれてますか?」
「飲んでるよ。しかし、皆、よく飲むね」
「えぇ、部長筆頭にお酒が好きな部なんですよ」
すると部長がこちらを向き「春立も好きだろう。別部署なのに来るくらいなんだから」とギロリと睨んだ。
「わ、それは平野部長がぜひと言うから……」
「なんだぁ、俺のせいか?」
「いえ、お呼びいただき光栄です」
すると部長は「はじめからそう言えばいいんだ」と笑う。
春立さんが“ははっ”と爽やかに笑った。
並びのよい歯が“こんにちは”する。
春立さんは、部長のお気に入りだ。
彼は私だけでなく、先輩、後輩、同僚、皆から好かれているような人だ。
春立さんは経営戦略部に所属しており、26歳の私より7つ上の先輩だ。
別部署だが、マーケティング部と経営戦略部は関わりがあるので、ミーティングなど一緒に仕事をすることがあり、春立さんとは顔見知りだ。
ただ形だけミーティングに参加しているような私に比べ、春立さんはディスカッションする立場でいるので、バリバリ仕事をこなす彼をよく知っているし、カッコいいと思って見ていた。
実際、彼の容姿はカッコいい。
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