はじまりの夜

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「飯島、昼食行かねーのか?」 春立さんと輪島さんのことを頭から消そうと仕事に没頭していた私は佐藤さんから声をかけられハッとした。 一目惚れして買った腕時計は12時を10分ほど回っていた。 「あ、はい。行きます!」 昼食はお弁当を作る日もあるが、大体社食で日替わりランチを食べるのが私のスタイルだ。 佐藤さんとは時々昼食を共にする。 今日がそうだった。 「今日はアジ南蛮かー。俺、別のにしよう」 肉好きな佐藤さんは日替わりのメニューを見て、別のメニューに視線を向けた。 私は日替わりにすると決めていたので、悩む佐藤さんの後ろで待っていた。 すると後ろから「栞、何にする?」と輪島さんの声が聞こえてきた。 “栞” 「俺、日替わりにするわ」 私が呼びたくて呼べない名前。 そして、大好きな声も……。 低く穏やかな彼の声。 二人の時はずっと聞いていてもいいと思える声なのに、今は耳を塞ぎたくなった。
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