はじまりの夜

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「それに飯島の卵焼き、バリエーション豊富で好きだな」 それだけつまみ食いされているということだ。 苦笑する。 「いいなぁ、私も奈々ちゃんのご飯食べたい」 どうしてこんなにいい人なのだろう。 私もできるわよアピールをするわけでもなく、相手を否定するわけでもない。 「いえいえ、全然大したことなくって……」 「そう言う人に限ってすごいのよね」 輪島さんは素敵な笑顔を見せる。 眩しい。最強だ。 彼女には何も敵わない。 すると今までまざってこなかった春立さんが「二人とも食券買ったの?」と言った。 春立さんは無表情だ。 ほんの少しだけ期待する。 “佐藤さんといる私に嫉妬しない?” 「あ、いえ、今からです」 「そっか。決まってたらどうぞ」 しかし期待はすぐに逃げていく。 彼は会社でよく見せる爽やかな笑顔を乗せ、“どうぞ”と手を伸ばしたから。 全く気にしていない顔。 “ーーヤキモチやいてよ” 口にできない思いはモヤモヤと胸を苦しめる。
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