はじまりの夜

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「なぁ、それ旨い?」 「……はい」 「ふーん、これちょうだい」 「……はい」 「いただき」 付け合わせの小鉢がなくなり、ハッとした。 取られたのは私の好きな白和えだ。 取り返すつもりで手を伸ばすと、手首を掴まれた。 「え、佐藤さん!?」 「俺、“ちょうだい”って言ったぞ?」 「……え、嘘……」 まるで聞こえなかった。 なぜなら、佐藤さんを通り越した後ろの席に、春立さんの後ろ姿があるから。 その向かいには綺麗な笑顔を乗せている輪島さんがいる。 気にならないはずがない。 まさに心ここにあらず。 「なぁ、飯島、おかしくないか?」 「え、そ、そうですか?」 ギクリとした。 無理矢理の笑顔を張り付ける。 絶対、輪島さんの何倍もブサイクなものだ。 「今だけじゃない。最近おかしい」 「……そんなこと……」 “ない”と言おうとすると、佐藤さんがこちらに顔を近付けた。 「飯島が上の空の理由、春立さん?」 「へ、は、え……」 驚きで佐藤さんの後ろが見えなくなる。 あんなに気になっていたのに、忘れる。
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