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「その動揺しっぷり。間違ってないだろ?」
佐藤さんの瞳は真剣だ。
少しも冗談が混じっていない。
少しの間、固まる。
自分が息をしているのかわからなくなるほどだった。
「そ、そんな……何を言ってるんですか?」
早口になる。
そして、佐藤さんから手を離した。
「付き合ってるの?」
「へ、え、付き合ってないです。そもそも私は彼をどうとも……」
小さな声で言った。
春立さんに聞こえてしまわぬよう、周りに聞こえてしまわぬよう。
「俺が“二人を見た”って言っても?」
二人とは私と春立さんだろう。
けれど、決定的なことを言われたくない。
「え、何のことですか……?それより白和え返してくださいよ」
とぼけた。
だって、心当たりはある。
週末の食事デートの時だろうか。
スーパーで買い物をしている時だろうか。
きっと私の顔は不安でいっぱい。
ごまかしが通用しないのはわかっていた。
それでも肯定するわけにはいかない。
会社は恋愛禁止なんてことはない。
むしろ、社内結婚は多い。
だから、もし春立さんとの関係に名前があれば、まだ言えるけれど、今はとても言えない。
「どうしよっかな」
佐藤さんは優しい人だ。
私のごまかしに乗った。
「ほら」と小鉢を私に返すと、春立さんのことを踏み込んで聞くのをやめた。
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