はじまりの夜

30/38
前へ
/38ページ
次へ
“今週末、来る?” 週末が近付くと来る春立さんからのメッセージ。 複雑ながらも“お邪魔します”と即答してしまう私だけど、昼間の輪島さんのことが頭に過り、今回初めて断りを入れた。 “ごめんなさい。今週は行けません” 理由なしに返信する。 送った後、胸が嫌にドキドキした。 そして、後悔した。 だって、会いたい。 意地なんて張らず、春立さんの胸に飛び込みたい。 そしてなにより、“何の用?”とか“残念”とかそういうものを期待していた。 だけど、現実は甘くないもの。 “了解” 春立さんからの返信はその二文字。 寂しさが胸に吹き込む。 彼にとって私はなんなのだろう……。 翌日は、会社で春立さんとすれ違ったが、普段と同じ先輩の笑顔を乗せた彼に、他の社員と変わらぬ挨拶をされただけだった。 身体を重ねても何も縮まっていない、私と春立さんの関係。 こんなことなら、断らずにいればよかった。 彼の背中を見て、私は今日もため息を吐く。
/38ページ

最初のコメントを投稿しよう!

130人が本棚に入れています
本棚に追加