はじまりの夜

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「暇……」 こんなことなら、春立さんの誘いを受けていればよかった。 土曜日の今日、久々に時間をもて余していた。 いつもよりよく寝たし、部屋の掃除だって、洗濯だって終わってしまった。 いつも何をして過ごしていただろう。 春立さんといる前の自分が思い出せない。 ひと月の間、春立さんと共にいたから、余計に寂しく感じた。 鳴らないスマホを見て、ため息を吐く。 春立さんは今頃、私のことなんて忘れて休日を満喫しているのだろうか。 このまま忘れられたりして……。 怖くなり、春立さんに連絡をとったのは夕方。 “予定がなくなりました。今から会えませんか?” すると意外にもすぐ“迎えに行くよ”とメッセージが来た。 私以外の誰かと過ごしていなくてよかった。 泣きたくなるくらい嬉しかった。 試したい気持ちもプライドも忘れて喜ぶ私は彼に溺れている。
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